自殺の兆候というと、
- 自殺のほのめかし
- アルコールや薬物の乱用
- 自傷行為
- 感情の変化(集中力がない、急に明るくまたはふさぎ込む等)
などが挙げられるだろうか。
わが子の自殺企図に家族は本当に気づけるのだろうか?
私たち家族はあの子の自殺願望に全く気付かなかった
突然あの子は自殺を図った。
そうとしか思えなかった。
全く思い当たる節はなかった。
大人には信じられないような些細なきっかけで自ら命を絶つこともあります。自殺の引き金となる「直接のきっかけ」が原因としてとらえられがちですが、自殺を理解するためには複雑な要因がさまざまに重なった「準備状態」に目を向けることが大切です。自殺の準備状態が長期にわたり、要因が複雑であればあるほど、一見ごく些細なきっかけで、自殺が突然起こったように思えるときがあります。
文部科学省 自殺のサインと対応
これもよくあることだが、振り返ってみればあの時・・・と、後からこれまで起きた様々な事象に自殺の原因を見出そうとする。
あの子の変化に全く気付けなかった後悔と反省から。
自殺未遂3日前のこと
日中の様子
学校の特別授業があった日だった。
帰宅して制服を脱ぐあの子に、私は何か声をかけた。内容は忘れてしまったが、そこを通るからどいてほしい、とか、そんなようなことだったと思う。
ところがあの子は、なぜか絡んできた。
思春期はこれだから面倒だわ、と私は適当に相手をしてその場を離れた。
休日も授業で疲れているのだろう、ぐらいにしか思っていなかった。
夜の様子
あの子はオンラインでゲームをしている。
その日もチャットをしながらゲームをしていた。
下の子が寝る時間でもあり、いつものように、
「チャットはやめてほしい。やるなら小さい声で!」
と声をかけた。
それでも、やはり隣の部屋のため声が聞こえる。
気になって私もイライラする。
ドアを開けると、あの子は趣味で使用していた道具の一つである、分厚いマスクをしてチャットを続けようとしていた。
私の顔を見つめるその目が、今思うと悲しみ、絶望、すがる・・・そんな目をしていたような気がする。
「うるさい!〇時にはやめて!そんなことやっても声は漏れてる。はよ寝ろー、あほー。」
文字に書くとかなりキツイが、例えるなら、小さいこどもが悔し紛れにバカだのアホだの、遠巻きに言っているような感じである。
いつもなら流すあの子が、キッとした目つきで振り返り、
「今、アホって言った??」
と怒りを込めて言ってきたが、私は
「アホでしょー、そこまでしてゲームしたい??はよ寝なー。」
そう流して、寝室へ戻った。
自殺未遂2日前のこと
朝から床屋に行き、車の中で、
「これが聞きたい。」
とCDを変えて、下の子と一緒に大声で歌いながら家まで帰った。
それ以外はいつものようにオンラインゲームをして過ごす。
特に記憶に残っていないほど、ごく普通の一日だった。
後からわかったことは、この日の22時ごろにネットで自殺方法を検索していたことだ。
検索サイトは3つ。
時間にしたら数10分程度だろうか。
その時の履歴のキャプチャを残しておこうと思っていたが、上手くいかずに結局そのままにしてしまったため、正確な訪問時間、サイト名がわからない。
それまでは時々おかしなサイトを訪れていないか、私があの子の履歴をチェックしていた。
パソコンは共有スペースに置いてあり、この頃はWeb小説か動画かオンラインゲームだったため、履歴チェックをしばらくしていなかった。
この日以来、私は毎日パソコンの履歴をチェックしている。
自殺未遂前日のこと
朝から就寝まで
普通に朝起きてきて、普通に学校へ行った。
この日は下の子の代休で夕方まで実家で従弟たちと遊んでいたため、私たちとあの子の帰宅時間が重なった。
あの子は陽気に歌いながら自転車に乗って帰ってきた。
「今日ね、音楽でイタリア歌曲を聞いたんだよー。」
オペラ歌手のように、顎を引いて胸を張り、両腕を広げながらまた歌う。
下の子と笑いながら家へ入る。
夕食のときは、元合唱部だった主人と一緒にその曲を歌う。
あの子は夕食を先に食べ終えて、いつも通りパソコンの前に座る。
「あのイタリア歌曲と『もろびとこぞりて』って、似てるよね??」
と言いながら、検索した2曲を聞かせてくれる。
「ほんとだねー、似てるー!」
途中、夕飯のテーブルに来て、デザートのチーズスフレを食べて、ご機嫌でまたパソコンのある共有スペースへ戻る。
後からわかったことは、あの子の「遺言」としてデスクトップに貼られていたドキュメントの作成時間が21時頃であったことだ。
あの子は父親と歌をうたい、家族とバカ話をし、デザートに喜び、それと並行して遺書を書いていたことになる。
この衝撃を想像してもらえるだろうか。
22時。
まだWeb読書をしているあの子に
「9時にパソコン消して、そこから課題やるとスッキリして寝つきがいいんじゃなかったのー??」
と声をかける。
以前、自分の適切な睡眠時間や導入パターンをあの子が発見していたからだ。
あの子はニカッと笑って、
「読書中でーす。」
と言った。
私はこの時のあの子の笑顔を忘れない。
本当にいい笑顔だった。
きっと、これが最後、と思っていたのだろう。
この時の心境をあの子は入院中に話してくれた。
それに関しては後述する。
2時、家の明かりがつけっぱなしだった
私は物音には敏感な方だし、産後の授乳から一定時間に目が覚める体質になっていた。
その日は前述したように、下の子の代休で実家へ遊びにいっており、私も子ども達の面倒を一日見ていたので、疲れていたのですぐに眠ってしまった。
こんなことは年に一度あるかないか珍しいことである。
そういう時だからこそ、わが子が夜中に家を出て飛び降りる、という偶然が重なるのかもしれない。
夜中にふと目が覚めた。
時計を見ると2時だった。
トイレに行くと、いつも消えている明かりがついている。
また風呂で寝ているのかな?
あの子は新生活がスタートしてから、風呂で寝ることが度々あった。
その度にパソコンの利用時間ルールと「早く寝なさい」の声かけをセットであの子に言っていた。
風呂場は真っ暗だった。
玄関の明かりもこうこうとついていたが、消し忘れたんだろう、とすべての電気を消して私は寝室へ戻った。
通報と入院時間から、この時間には既に病院で治療を受けていたことになる。
その他、今思えばサインだったかもしれなかったこと
- オンラインゲームを解禁にしたため、空き時間のほぼすべてがパソコンに向かうようになったこと
- 平日の夜10時にはパソコンはオフにする約束はほぼ守れていたが、風呂で寝てしまうことが多くなったこと
- 下の子にしつこく絡むことが多かったこと
以上だろうか。
友人と遊びに行く、好きなことをするなどほとんどしない生活になっていた。
学校と部活と課題とパソコン(オンラインゲームと小説、動画視聴)の間に食事と風呂が入る感じだ。
課題が多いという噂の学校であるが、ゲームの合間に課題も予習もこなし、成績も上位で余裕があるようにしか見えなかった。
「この一週間が1ヶ月ぐらいに思えるよー。疲れたー!!」
と私に話してくれていたし、
「ようやく慣れてきたかな、あっという間の一週間になったよ。」
新生活1ヶ月も経つとそんな風に報告してくれていた。
それでも、下の子に対する態度だけはあまり変わらなかった。受け答えに余裕がない。
年が離れているのに、大人気ないというか、とにかくいちいち気にくわない言い方、内容に食ってかかっていた。
今はそれが嘘だったかのように下の子に対して穏やかになっている。
もちろん、きょうだいで近い存在であるから時にはイラッとしていることもあるが、以前のように言葉でやりこめたりすることがない。
新しい生活が始まり、サイクルが変化していくなかでこれらのサインもそのうち無くなるか落ち着くだろう、などと思っていた。
今思えば、この
- イライラ
- 余裕のなさ
が、1番わかりやすいあの子のサインだったのかもしれない。
あの子の自殺企図のサイン
振り返る中で気になった点については赤ラインを引いた。
以下である。
- いつもならスルーすることに、なぜか絡んできたり、本気で言い返したこと
- 悲しみ、絶望、すがる・・・目の奥に見える悲しみ
- ネットで自殺方法を検索していた
- 陽気な態度、とびっきりの笑顔
- 睡眠パターンの変化
- 下の子に対する余裕のなさ
この他にも、
「天は二物も三物も与えた人っているんだねー、クラスメートに優しくてイケメンで、スポーツ万能なヤツがいるんだよー。でも、成績じゃぁ僕が潰すけどね!」
嫌味でもやっかみでもなく、純粋に尊敬というかすごいクラスメートがいる、といった感じで、やや興奮気味に話してくれた。
この発言に対しては当時、切磋琢磨することはいいことだ、と思いつつ、そうなんだ、と相槌を打った程度だった。
けれども、今考えると視点が自分ではなく、他者になっている。他人がどうであれ、自分はどうしたいか、どうなりたいか、が大切だと思う。
とはいえ、10代の頃は周りの視線が気になるものだし、この発言から少しずつ気持ちが自殺願望へ動いていったなんてことはやはり、気づくのは難しかっただろうと思う。
結局、自殺のサインに気づくのは難しい
あの子の飛び降りを止められなかった自分を慰めるためではないが、突然の自殺及び自殺未遂は、明らかな原因ーいじめ、友人関係、成績、家庭問題等ーがなければ気づくのは難しい。
入院中に今回のことを振り返り、あの子が言った言葉が忘れられない。
「(自殺準備は)全然わからなかったでしょ??全力で隠したもん!」
と自信満々な様子で言われたことだ。
ショックだった。
まるでゲームみたいに、自殺の準備をして最終目標である自死というゴールをクリアするかのようで。
「隠さなきゃいけなかったってこと、言えない関係だったってことが、親としては辛いよね。」
精神的な安定が必要だったあの子の前では、カウンセラーのように振舞おう、と思っていたが、この時はさすがに泣けた。
そんな私をあの子はブスッとした顔でチラリと見た。
自分を責められたように感じたのかもしれない。
「親に言えないことは色々あるよね。お母さんもそうだった。友達、先生、いろんな人と出会って、話せる頼れる関係というか、そういう人が見つかるといいな、というのも親としての願いだよね。」
あの子は無言のままだった。
自殺をすると心に決めた子どもは、気づかれないように周到に準備をする。
私が今お世話になっているカウンセラーの方もうちの子と同じような例を過去に担当したケースとしておしえてくださった。
家族に余計な心配をかけたくないのかもしれない。
いわゆるうつ状態で、家族がどうこうよりも、自殺のことしか考えられなくなっているのかもしれない。
とにかく、子ども自身が気づかれないように細心の注意を払っているのだ。
それに家族が気づくというのは本当に難しい。
原因がわからず、突然自殺という形でお子さんを亡くされた親御さんはどうかご自分たちを責めないでほしいと思う。
もちろん、原因がどうであれ自分自身を責め続けるのが親だと思う。
あなたは悪くない。
どうかどうか、少しでも心安らかに過ごせる日が少しでも長く、多くなりますように、と願う。
私は幸運なことに、あの子は自殺未遂に終わり、今は日常生活を送れるぐらいまで回復している。
自殺の予兆を逃さないだけでなく、いろんな点で「やり直し」をさせてもらえる今の環境に感謝しかない。
それでも、子どもの自殺企図のサインに気づくために
我が家のケース限定ではあるが、以下に子どもの自殺を未然に防ぐために特に気をつけていることを挙げてみる。
- あれ?おや?と思った言動はそのままにせず、都度「何かあった?」「いつもは流すのにつっかかるんだね。どうかした?」など確認する
- 毎日パソコンの履歴をチェックする
たったこれだけ?と思われるかもしれない。
けれども、毎日子どもと過ごしているとついつい、まぁいいやと流してしまうことはないだろうか?
地味なことだが、自分の中の違和感を言葉にして出す、伝えることの大切さ。
明らかに落ち込んでいる時や様子が違うときだけに限らず、普段から目を配る。
当たり前のようでなかなかできないことだと思う。
そして、この日々の目配り・気配りが私の緊張状態を続かせるのもまた事実である。あの子が眠るまで私は眠れない。けれど、我が子の命には変えられない。
もちろん、今回の自殺未遂の原因と思われることにはまた別の対処をしている。それに関しては後日記事にする。
おわりに
突然自殺を図った10代の子どもの自殺前のサインについて振り返った。
振り返ればいつもと少し違っていたな、と思っても、何もなければありふれた日常の一コマとして埋もれてしまう自殺の予兆。
家族や近い人がそれをキャッチするのは大変困難である。
またの機会に青少年の自殺の要因やあの子の自殺未遂の原因について考えてみたいと思う。
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